縦：約60mm
横：約56mm
作者：アゴスティーノ・チェントベッリ
QR：カタログクオリティ

次世代を担う巨匠候補の筆頭、アゴスことアゴスティーノ・チェントベッリ氏の絵画モチーフ作品の入荷です。

現在名匠として名を馳せる作家たちが多く生まれた1970年代前半、その世代の中でも最も彫刻刀の扱いが上手く、絵画的技術も高度であると評判の高いのがアゴスティーノ・チェントベッリ氏です。
同世代でアゴス氏と同様に極めて高い評価を集めるチーロ・マッツァ氏もそうであるように優秀な彫刻家であるアゴス氏もトッレ・デル・グレコの芸術学校の彫刻の教員を務め、高い評判に反して近年はなかなか作品を手に入れることが難しくなってきております。
また、販売用の作品の制作にかぎらない芸術的活動にも熱心で、サンゴや大理石といったシェルカメオ以外の彫刻も手掛け、さらに特筆すべき点としては、ドイツからメノウを取り寄せてストーンカメオにも挑戦しているなど、今後も芸術家としてさらなる活躍が期待されています。
シェルカメオとハードストーンカメオを両方作るということに関しては、19世紀の巨匠サウリーニでそういう話を聞く程度で、以降イタリアではメノウを彫刻する技術は失伝していますので、アゴス氏の活動によっては150年来のイタリアのストーンカメオの復活、その先駆けともなるかというところで、私としても動向が非常に気になる一番の作家です。

さて、今回のお品物はアゴス氏による新作絵画カメオです。

モチーフはイタリアに大変関連深いペルジーノ作の名画”聖ペトロへの天国の鍵の授与”。
キリスト教において天国は錬鉄の門で守られているといわれており、その門の鍵をキリストが弟子のペトロへと手渡す場面を描いた絵画です。
聖ペトロは天国の鍵を授けられたことで初代ローマ教皇として数えられることとなるため、この瞬間こそローマ教皇誕生の瞬間でもあり、また現在もバチカンの紋章には教皇を象徴する天国の鍵が描かれております。
そんな伝説的な瞬間を描いたペルジーノ作の絵画を、現代随一の作者であるアゴスティーノ・チェントベッリ氏が手掛けたのが本作。
遠景を貝の濃淡を巧みに使った色差で表現しつつ、画面の主役となる人物を高く彫ることで印象深く表現するという技法は、現代風景カメオの第1人者ともいえるフェルディナンド・セルペ作の完成された作風にもみられたもので、すなわち現代の風景カメオの技術の粋を凝らしたものといっても過言ではないでしょう。
彫刻刀の扱いにおいては20年前にすでに老練の名匠に迫るといわれたアゴス氏の作だけあり、風景カメオにおいて重要な建造物の直線や色むらの少ない整った空気遠近感は見事の一言であり、全体的な完成度を見てもセルペ作の名品に劣らないものとなっております。
一方で装飾面についてはアゴス氏に特有のアールヌーヴォーを思わせる植物的な非対称の装飾が目を引きます。
これによりカメオ作品としては絵画部分単独よりも印象的なものとなっており、本作をただ絵画を模倣したカメオとは違うアゴスティーノ・チェントベッリ作のカメオとして完成させております。

貝は濃いコーヒー色に薄い中間色をもち上層に美しい白色が乗った最上質のサードニクス。
褐色部がこれだけ濃くて白色部に淡黄色が乗らない貝というのはなかなかなく、このような貝を本作に用いたところもアゴス氏の本作にかけるこだわりが垣間見えます。
工房直送の作品なので保管中の傷みは一切なく、裏10時位置と12時位置に薄いヘアラインが散見されるのみの素晴らしい状態です。



※新作カメオは時価の半額を基準として価格を決定している古物と比べ多少割高となっております。（それでも一般的な時価は超えないよう調整しております）
もちろん買い付けの価格も古物市場の同等品を購入するより高額ではありますが、そもそも古物の取引では現職のカメオ彫刻師たちには1ユーロの利益にもならないことから、当ギャラリーでは現職作家たちへの、そしてカメオ文化の継承を支援するという観点をもって、積極的に作家本人から作品の買い付けを行っております。
当然、こうした当ギャラリーの売り上げはさらなる現職作家たちからの作品買い付けへ充てていきますので、古物と比べて割高になる点は、カメオ文化の将来への投資としてご理解いただければと思います。