縦：約55mm
横：約45mm
作者：アゴスティーノ・チェントベッリ
QR：カタログクオリティ

次世代を担う巨匠候補の筆頭、アゴスことアゴスティーノ・チェントベッリ氏のオリジナル作品の入荷です。

現在名匠として名を馳せる作家たちが多く生まれた1970年代前半、その世代の中でも最も彫刻刀の扱いが上手く、絵画的技術も高度であると評判の高いのがアゴスティーノ・チェントベッリ氏です。
同世代でアゴス氏と同様に極めて高い評価を集めるチーロ・マッツァ氏もそうであるように優秀な彫刻家であるアゴス氏もトッレ・デル・グレコの芸術学校の彫刻の教員を務め、高い評判に反して近年はなかなか作品を手に入れることが難しくなってきております。
また、販売用の作品の制作にかぎらない芸術的活動にも熱心で、サンゴや大理石といったシェルカメオ以外の彫刻も手掛け、さらに特筆すべき点としては、ドイツからメノウを取り寄せてストーンカメオにも挑戦しているなど、今後も芸術家としてさらなる活躍が期待されています。
シェルカメオとハードストーンカメオを両方作るということに関しては、19世紀の巨匠サウリーニでそういう話を聞く程度で、以降イタリアではメノウを彫刻する技術は失伝していますので、アゴス氏の活動によっては150年来のイタリアのストーンカメオの復活、その先駆けともなるかというところで、私としても動向が非常に気になる一番の作家です。

さて、今回のお品物はそのアゴス氏の作品の中でも難解な興味深い作品です。

カメオというものは、現在では女性がジュエリーとして用いることが想定されたモチーフが取られることが多く、暗いイメージのあるモチーフはあまりとられないもの。
商業向きより自身の芸術性を取る芸術家気質の作者はそれなりにいるものの、その中からわりとダークな雰囲気の作品も制作するとなると、フランコ・スカーラ氏くらいと思います。
本作はカメオには珍しい死神が描かれたカメオで、スカーラ氏の作品とはまた違った雰囲気を持った作品です。
明確にテーマがある作品なのは見てわかるのですが、そのテーマが何なのか非常に難解なカメオで、どうにも自力では読み解けなかったので、アゴス氏ご本人に作品について解説してもらってきました。
タイトルもアゴス氏によるもので”死への恐怖”。
この作品には時間の流れが表現されており、画面の奥から手前にかけて時間が進む様子が示されています。
背景の遺跡は過去で奥にあるのは巨石文明のシンボル、中層には頭を抱えてうずくまる天使と死神がいる現在、そして最も手前にはまだ見ぬ未来の象徴が天使のもつイメージで示されています。
この死の影におびえる天使はいつかやってくる自らの死を恐れる無垢な魂を示したもので、死が待つ未来の姿を恐ろしい悪魔のような姿としている。
しかし魂が恐れるその未来を象徴する女性は、母のように慈愛をもってこの無垢なる魂を見守っています。
アゴス氏はこれを人が未来に持つべき信頼と表現し、未来は決して絶望に満ちているわけではなく、あたたかな希望があることをこの作品に込めたとのことでした。
そして過去も、この未来に進むために必要なもので忘れてはならないものであることから画面に示されており、それは天使の足元に確かに存在しているのです。
いつかこの天使が顔を上げ、過去をしっかりと踏みしめて未来を見据えたとき、夜は明けて日が昇り、死の影は消え、悪魔のような姿の女性はそのまがまがしい姿を捨てて本来の姿を見せるのかもしれません。

貝はコーヒー色に中間色をもち上層に美しく透明感のある白色を乗せた上質なサードニクス。
全体的に厚みのある貝でしっかりしています。
瘤を含む素材でありこれを削り切らず残して彫刻しているものの、瘤材に多い色交じりやヒビもなく、表面の状態は並以上の綺麗さ。
裏面も目立った傷は無く、中央から少し下のところに目立たないヘアラインがあるくらいです。