縦：約50mm
横：約42mm
作者：アントニオ・ペルニーチェ
QR：アーティスティッククオリティ

当ギャラリーは基本的に古物のカメオを中心とした取引を行っておりますが、古物の取り扱いでは今現在イタリアでカメオ彫刻にいそしんでいる彫刻師たちへの還元が一切なされず、彼らに直接的な貢献ができないことは以前より気にしておりました。
ここ最近は直接現地の工房とのやり取りが増えてきたことでいくつかの工房からは作品の買い付けが叶うようになり、かねてより気にしていた現代の彫刻師たちへの直接的な貢献も行えるようになってきました。

日本で最も名が知られ、そして作品数も多いカメオ作者といえば、やはりペルニーチェ兄弟でしょう。
多くの有名作家の縁者が二世代目として活動しているように、ペルニーチェ家も縁戚関係のある作者だけで5人知られております。
アントニオ・ペルニーチェ氏はアニエロ・ペルニーチェ氏のご子息であり、以前から作品はちらほら見かけていたのですが、最初に見たときから気になっていたのは、他の二世系作者と異なり、アニエロ・ペルニーチェ氏の作風を継がず独自の作風の模索を最初から続けている事でした。
他の4人は一目見ればペルニーチェの系統であることが分かるのに対し、アントニオ氏は作品だけを見てもペルニーチェ家の作者、ましてアニエロ氏のご子息であるとはとても気づかないほどです。
以前はさほど特異性のない一般的な風景物などが目立ちましたが、近年制作スタイルが一変して新時代のカメオを先取りするような動きを見せており、個人的にかなり期待しております。
なおこの新しい制作スタイルではカメオの形状が楕円形ではなく不定形なものが多く、フレーム加工に手間がかかるために日本の宝飾業界とはそりが合わないものとみられ、現在アントニオ・ペルニーチェ氏の新作を入荷している専門店は無く、今後もさほど出回ることは無いと思われます。

今回はアントニオ氏による白鳥と湖をモチーフとしたカメオ。
若いバレリーナの少女と白鳥を大胆に組み合わせた構図によるもので、まずはその独特な構図に目を引かれるものの、彫りの細かさも印象的です。
鳥やその翼が含まれるカメオは、その羽をみれば作者の力量が分かるといっても過言ではないのですが、本作の白鳥は翼のみならず全体の羽毛を繊細な彫刻刀使いで表現しており、アントニオ氏の巧みな技術がよくよくわかるかと思います。
さらに彫刻の技術のみならずカメオ作家に必要な下地技術である描画にも優れていることが分かる作品で、少女の横顔は19世紀のカメオに多く見られた古代ギリシャ的な顔立ちでも20世紀後半から近年まで続いている独特のデフォルメがなされた顔立ちでもなく現実的な顔立ちとなっており、モチーフを観察する技術と脳に読み取った像を描き出す技術とを持ち合わせていることを示しております。（もちろんそれを彫刻として彫りおこす彫刻家としての技術も）
ちなみに、実はこうしたシルエットはこれまでのカメオの時代で一般的になったことは無く、各時代の最高の彫刻家たちが写真をもとにカメオを彫ったときなど、わずかに作った程度でした。
もちろん師であり父であるアニエロ氏の作風とも異なるもので、こうした点もやはりアントニオ氏がこれまでの慣習に過剰に縛られることなく、独自に良い作品を追い求めている証左であると言えるでしょう。

ちなみに本作と同系統の動物と少女をモチーフとした作品は他にもバリエーションがあり、それらも海外でかなり人気が高くアメリカを中心にペルニーチェ工房の顧客は広がりを見せており、本作も人気のシリーズのひとつとして今後が楽しみな作品です。

貝は濃い目のコーヒー色にくっきりとした白色の乗ったサードニクス。
かなり品質のいい貝で、厚みもあり色のりも素晴らしいです。
サインは最近の新しい作品から見られる”x-nice”で、表の右端に切られております。
ヘアラインは画面右上の褐色層にうっすらとしたものが数筋あるのみ。
もちろん工房から直接買い付けた新作カメオですので、保存の傷み等はありません。



※新作カメオは時価の半額を基準として価格を決定している古物と比べ多少割高となっております。（それでも一般的な時価は超えないよう調整しております）
もちろん買い付けの価格も古物市場の同等品を購入するより高額ではありますが、そもそも古物の取引では現職のカメオ彫刻師たちには1ユーロの利益にもならないことから、当ギャラリーでは現職作家たちへの、そしてカメオ文化の継承を支援するという観点をもって、積極的に作家本人から作品の買い付けを行っております。
当然、こうした当ギャラリーの売り上げはさらなる現職作家たちからの作品買い付けへ充てていきますので、古物と比べて割高になる点は、カメオ文化の将来への投資としてご理解いただければと思います。