縦：約60mm
横：約45mm
作者：フランコ・スカーラ
QR：カタログクオリティ

イタリアカメオ界の名匠のひとり、フランコ・スカーラ作のカメオの入荷です。

フランコ・スカーラ氏は独特の哀愁を持つ作風で有名な作家ですが、そう言われる一方でこれといった”型”が無いという稀有な作家でもあります。
通常カメオの制作は職人に対し、作家ごとの特徴を汲んだ上で需要に沿ったものを作ってもらうという世界であり、名匠・巨匠と呼ばれる作家には大抵なにかしらの代名詞的な優れた具体的な作風があるものですが、スカーラ氏にはそれがありません。
それゆえ若干”わかりにくい作家”であり、また後述の理由※もありあまり一般受けはしない感じがあります。
しかしながら型や需要にすら捕らわれず、自分の作りたいものを作ってそれでも名を挙げるという経歴はまさに芸術家と言うにふさわしく、また同時代の巨匠・名匠と呼ばれる作者に比べると、同氏の影響を受けた後代の作者は類縁者にとどまらず圧倒的に広く多いことからみても、むしろ玄人受けする非常に高い芸術性と表現力を持っていることは明らかです。
購入する側を見ても、カメオをブランド物やただのジュエリーではなく美術品として捉えるコレクターからは、極めて強い支持を集めております。

※フランコ・スカーラ氏はいわば大器晩成型の作家であり、風景物は90年代中頃より、人物物がよくなるのはもっと後で2000年頃以降。
カルロ・パルラーティ氏やジェンナーロ・ガロファロ氏のように若くしての受賞や教皇庁への献上などの話も聞かないこと、さらに代名詞的な作品が無いこともあってブランド力において評価が落ちる結果となっている。先述の通り良いものは素晴らしく良いがそうでないものもかなりあるため、名前だけで買ってはいけない作者の筆頭である。同系統の作品を多産し品質にばらつきが小さい前述のふたりに比べて当たり外れが大きいのもブランド力に影響しているかもしれない。

さて、そんな難しいスカーラ作ですが、本作は難解なモチーフや人体・布地などの圧倒的な表現力とスカーラ作の典型的な要素を持ちながら自信をもってご紹介できる名作です。

やや不気味さも感じる道化師はスカーラ作には時折見られるモチーフであり、それは息子のサルヴァトーレ・スカーラ氏の作風にも受け継がれております。
また裸婦像は職人肌ではどうも扱いきれないようで、一流の芸術家肌の作家が稀に彫るくらいでカメオの世界では非常に珍しいです。
画面に散在する道化師の不気味さは裸婦のどこか超現実的な不可思議さを演出し、各モチーフだけを見れば上品といいがたいものを使っていながら、全体としては全く下品さを感じさせない清廉さと妖艶さを感じさせるものとしております。
それでいてどこか空虚さが漂う独特の雰囲気を漂わせており、これでこそ典型的なスカーラ作の良作といえましょう。
さらにモチーフとその表現の特異性もさることながら、写真の通り貝の厚みをよく活かした彫りが目を引きます。
裸婦の布のかけられた脚の表現は極めて美しく、また裸婦の影に寄り添うような道化師の配置も、バランスに優れた絵画的構図のみならず陰影にも優れた彫刻的な表現がなされている点で、まさしく両者の複合芸術たるカメオの傑作と呼ぶにふさわしい作品となっております。
本作の写真はFacebookの当ギャラリーページにおいても展示し、現在活躍中の現地の名匠・巨匠をはじめ私の展示した作品のなかでもとりわけ多くの反響をいただいており、私自身の推薦のみならず、その品質について多くの裏打ちを得ている間違いのないスカーラ氏の名作となります。

また上質な濃い白色層を持った貝を使用していながら非常に巧みに暗色が乗る薄層を使って陰影をさらに強調する手法は、数いるカメオ職人の中でも絵画的手法において最高の腕をもつスカーラ氏ならではのもので、そうしてなおコントラストを失わない極めて濃い褐色の地をもつ貝と相まって最高クラスの仕上がりとなっています。

状態は1時の方向に浅いヒビ、また6時の方向に前所有者が付けた汚れの跡（汚れ自体はクリーニング済み）がありますが、大きく外観を損なう傷みではないと思います。

スカーラ氏は70代も中ばに差し掛かり、現在は現場を若い世代に譲ってその指導に当たっていると言われています。
スカーラ氏は似た物を多数制作するというスタイルをとらなかったため基本的にすべてがオンリーワンの作品であり、仮に現役であっても稀少な作品であることに変わりはありませんが、これから先は、本作のような名作は今にまして稀少なものとなっていくでしょう。