縦：約44mm（カメオ39mm）
横：約54mm（カメオ50mm）
作者：ジョヴァンニ・ノト
QR：ミュージアムクオリティ

作者についてのご紹介は、当ギャラリーのメニューよりBLOGをご覧いただき、記事の"作家01.ジョヴァンニ・ノト"をご覧ください。

シェルカメオの中興の祖、ジョヴァンニ・ノト氏による古典系カメオの入荷です。

幾多の世界的動乱を経て各分野の文化の衰退を招いた20世紀、そのなかで散逸したカメオの文化を立て直したジョヴァンニ・ノト氏。
彫刻技術、表現センス、そしておそらく作品から見るに作画技術に至るまで、カメオに必要なあらゆる技能を極めて高いレベルで備えた、まさに天才的なカメオ彫刻家でした。
ノト氏の作品は得意分野に縛られないという特徴があり、人物、動物、風景、絵画、動物とありとあらゆる系統を、その後の作者が誰も真似できていない圧倒的な品質で表現した作品を残しました。
一般に多く見られるG.Noto銘の人物物はジョヴァンニ・アパ工房にて作られた一般商用のカメオで、下彫りを弟子が行い詳細はノト氏が入れていくという工程を取って数を作っていましたが※少数ながらノト氏単独で制作したものがあります。
そういう単独制作のものは絵画や風景のものに多く（弟子もそういったものを模刻はしたがノト氏は手を入れていない）今回の作品もノト氏単独による作品になります。

※要は、現在の作者が電動リューターで一気にやっていく下彫り工程を、そういう精密な電動工具がなかった時代のやり方として、そして後続の教育の一環として工房の弟子達にまかせたのである。
ちなみに現在、下彫りにリューターを使うのとすべて手彫りでやるのとだと、前者は1週間、後者は1か月かかると聞く。
なおこうした商用カメオの銘は弟子がいれており私が知る限り3パターンの筆跡があるが、ノト氏の手が入っていないものもある。
一方サインの入っていないものや、小型の作品ではG.APA銘のものでノト氏の手が入ったものもあり、鑑定には知識と経験を要する。

モチーフはギリシャ神話よりアポローンと戦車。
19世紀から多く用いられてきたモチーフと構図であり、本作の構図にも19世紀の作品の名残がみられます。
19世紀のこういった神話系の絵画状のモチーフは円形の風景などが描かれず、主役だけか、あるいはその下に舞台のように地面だけ入れる物がほとんどでした。
本作で言えば後ろの神殿と柱が全くなく、また地面の下の模様装飾も無いといった感じだったわけです。
追加されたものについてはノト氏のオリジナルであり、このほかにもう一つ古典的な構図にアレンジをくわえたノト氏の作例を知っておりますが、それも本作と同様の装飾が用いられておりましたので、古典のアレンジシリーズのようなものがあったのかもしれません。
彫りと表現に関してはさすがにノト氏といいましょうか、こういう古典模刻の4頭立てチャリオットのカメオは現代にいたるまで作例が見られるものの、これだけ精細かつ整った彫刻と、主役の強調および画面内の遠近、それに猛る馬たちの躍動感を表現したものはほかに類を見ません。
アポローンの頭部はわずかに3mm、その中に目鼻耳すべてしっかり入れられており、チャリオットの整った装飾や技術レベルが如実にでる車輪の正確さ、同様に画面下の装飾も幾何学的に美しいものです。
画面の構成を見ても、現代のカメオのように色の濃淡だけで画面を構成するのではなく、主役は高く彫り残してしっかり影を落とさせ印象深くするオールドモダンの技法によりしっかりとアポローンとチャリオットを引き立て、背景の空気にかすむ遠景の神殿の描写とよくマッチさせています。
構成的に主役ではないにもかかわらずはっきり描かれている中央の柱ももちろん意図があり、これで視覚的な構図の安定性を補っているとみえ、ノト氏の描画に対する理解と技術の高さも伺えるところ。
総じて見どころ多く希少性も高い、ハイレベルなカメオコレクションのとっておきの一つとなれる逸品です。

貝はコーヒー色の地にくっきりとした濃い白色の乗ったサルドニクス。
状態は極めてよく、褐色層・白色層ともにヘアラインなし、鞭、手綱、馬の脚をはじめ細かな彫りの部分にも欠けがない完品です。
裏面にはノト氏の個人銘あり。
銘の位置、筆跡ともに上述の弟子の3パターンどれとも違う、本人作にのみ見られる特徴を備えております。

フレームは銀製のケース型フレーム。
金具は古い様式の風車式で、おそらく1950年前後のものでしょう。
フレームがシンプルかつ銀製なのも、まだ第2次大戦後の影響が残り資材にさほど余裕がなかった時代のものだからではないかと思われます。
こちらも状態よく、ゆがみや着用の傷みは見られません。
銀の色も程よく灰色がかり、落ち着いた古銀の色合いが美しいです。