縦：約62mm（カメオ55mm）
横：約50mm（カメオ43mm）
作者：-（アンティーク）
QR：ミュージアムクオリティ

カメオとしてはよく見るモチーフながら、実は良品がかなり少ない三美神のカメオの入荷です。

パリスの審判をはじめ古来より美術のモチーフとして数多く用いられてきたこの三美神。
しかしカメオとしての歴史は意外に新しく、20世紀前半、アールデコの時代からよく見られるようになってきたものです。
第1次世界大戦後となるこの時代は平均的なカメオの質が著しく下がった時代であり、落ちたカメオの質を補うためにダイヤで飾ったカメオ・アビエが再登場する、輸送上の問題からかコルネリアンのカメオがほとんどでサルドニクスのカメオが見られないなど、独特の作品傾向がみられる時代でした。
またこの時代、カメオの市場の中心はイギリスからアメリカに移っており、モチーフも変化が出て来た頃であり、三美神はそうした中で使われるようになってきたモチーフの一つです。
ただ、先に書きましたようにこの時代はカメオの質が低迷していた時期であり、ごく一部のオールドモダンの巨匠・名匠を除くと腕のいい彫刻師がいなかった時代だったため、登場以来良作といえるものがほとんどありませんでした。
ようやくいい作品が出てくるようになったのが21世紀にもなろうという時期、パスクアーレ・オッタヴィアーノ氏が美しいレース彫りで女神たちの衣装を表現したものに始まり、その後ご子息であるファビオ氏、それにそのレース彫りを追求したマッシモ・バルツァーノ氏やチーロ・アッカニート氏などの作品で時折みられるようになって現在に至り、今では時々三美神のカメオの良品も目にするようになっております。
さて、そんな中で見つかった本作、年代はなんと三美神が彫られるようになった当初でアールデコ期特有のフレームも現存した作品です。
その彫りの優美さたるや現代の三美神をもはるかにしのぎ、過去に私が見てきた三美神のカメオの中でも最優といっていいレベルでしょう。
構図も古く、こうした頭上にリース・ガーランドを掲げたものは20世紀の前半まで多用されたもののその後は見ることがなくなってしまった古い時期の三美神に特有のもので、現在はボッティチェリのプリマヴェーラに描かれる三美神がモデルとなっているものばかりのため、この構図で美しいカメオとなるとほかに見ることすらできません。
さらにこの時代には非常に珍しいサルドニクス、それも55mmの比較的大型の素材が使われているあたり、出自からしてこの時代の並の出ではないことは明らかです。
彫刻色の強いアンティークからオールドモダンの先駆けとなる時代の作だけあって貝の厚みと色の濃淡の扱いも大変に優れた技術にて仕上げられており、時代背景とこの作品の質とを鑑みると、今後同様の作品が見つかる可能性は限りなく低いといえる極めて希少性の高い逸品です。

貝はこの時代では非常に珍しいサルドニクスで、濃いコーヒー色から淡褐色のグラデーションの地と、透明感のある白色の層が乗ったもの。
安定してサルドニクスが供給されている時代からすれば、比較的厚みが薄く褐色層に色むらもあるだけランクが落ちるものの、この時代ではとっておきの素材だったのでしょう。
ヘアラインは画面上部の褐色層にいくらか散見されるも実用・鑑賞ともに問題にならないレベルに収まっております。
こぶのある部位にもかかわらず白色層はヘアラインもなく全体的には貝の状態はよいものの、表面にいくつか石灰質の粒のようなものがぽつぽつついております。
これについては一応落とせるものではありますが、カメオに傷がつくのを避けるためあえてそのままにしてあります。
そんなに硬いものでもないので、少しずつ自然に落ちていくでしょう。

フレームは14ctゴールド製。
20世紀前半のアールデコ期特有のフレームで、このフレームに良質のカメオが収まっていることなどほとんどない（知っている中では初期のノトの作品でリンドバーグの大西洋単独横断記念の作品がいくつかあるのみである）ので、フレームも併せて大切にしていくのが望ましいと思います。
わずかにゆがみと9時位置に補修のあとがあるものの、経年を思えば状態はいいと言えるでしょう。
キャッチはこの時代の典型的なカニカン式で、ピンもしっかり通っております。