縦：約35mm（枠含39㎜）
横：約33mm（枠含37㎜）
作者：ジョヴァンニ・ノト
QR：カタログクオリティ

ジョヴァンニ・ノトは1902年生まれのシェルカメオ作家です。
1985年にその人生に幕を降ろすまでの間に輝かしい経歴を残しており、カルティエやブルガリなど一流ブランドへのカメオの提供やイタリア王国国家からの依頼を受けて記念品のカメオの制作、リンドバーグの大西洋横断記念のカメオ、また晩年にはチャールズ皇太子とダイアナ妃の婚姻祝の作品も手がけ、その他スペインはマドリード、フランスはパリ、アメリカはニューヨークと各地の美術館や博物館にも作品が所蔵されていることからも、彼の活動範囲の広さと支持の深さが伺えます。
イタリア王国が共和制に移行した直後には、王国期に宮廷彫刻師として仕えたフランチェスコ・アパを祖とする老舗工房ジョヴァンニ・アパで美術監督に就任しており、その経歴と実績は名実ともにイタリア政府お抱えの最後の宮廷彫刻師的存在であったと言えましょう。
また2度の世界大戦の間に職人が育たなかった20世紀前半もカメオ彫刻師でありつづけ、戦後にはジョヴァンニ・アパにて自身の技を広く教えることでいったん断絶したと言ってもいいカメオの伝統をつないだ功績は計り知れず、現代においてもトッレ・デル・グレコのカメオ彫刻師の間で「Professor（教授）」といえばノトの事を指すなど、彼無くしては現代にカメオはなかったといっても過言ではない存在となっております。

今回は当ギャラリーでも人気の高い、ノトの50年代のマリア像のカメオです。
ノトのマリア像はこれまで大まかに3つのランクに分類しており、一番上がフィリッポ・リッピ画”聖母子と二天使”をモデルとした作品群、次いでカメオとしては小粒でありながらノト単独のハイクオリティピースで彫金フレームに収まった作品群、そこから少し時代が下ったところで、ノト単独作ではあるもののより制作数を多くすべくある程度ディテールに省略が見られるコマーシャルピースの作品群です。
従来はこの3つのどれかに分類してきたマリア像ですが、今回私も初めて見るコマーシャルピースとはクオリティピースの中間期のものと思われる作品が見つかりました。
これらの作品群は当ギャラリーでも写真が多いので見比べてみたいただければ一目瞭然化とは思いますが、作品のサイズや構図感はコマーシャルピースそのものでありつつ、彫りの細かさはその上のランクのハイクオリティピースと同等の質で制作された作品が今回展示するものとなります。
実際にコマーシャルピース版の「光輪と聖母」と見比べていただければ本当によくわかるのですが、ヴェールの折り重なりの数や顔の細かさ、それに光輪の条線がコマーシャルピースは3～4条ずつなのに対してこちらは5～6条ずつになっているなど、彫りのクオリティは完全にハイクオリティピースのそれ。
色合いも非常に美しく、光輪の外周のみうっすらと色を乗せてその存在を示し、内側は条線のみで表現することで像と背景のコントラストが映え、さらに薔薇の花も小さく添える程度（花1輪のサイズはわずか2㎜）に抑えているので画面内におけるマリア像の存在感が強く、ノト特有の優雅な微笑みを際立たせております。

貝は濃い目の橙色が美しいコルネリアン。
湾曲の度合いからみて2番材だと思われますが、コントラストがよく映える美しい色をしています。
ヘアラインは裏面0時位置から3時位置にかけて2筋ほどあるのみで、表面には一切の傷や劣化がなく70年以上前の作品とは思えないほどきれいです。

フレームは835‰銀製。
ノトのカメオのフレームとしては珍しい品位で、金のモールが添えられたシンプルな造り。
ブローチ金具は風車型で、ペンダント金具は小さなバチカンが付いています。
ピンにわずかな歪みがあるもののしっかりと留まり、ブローチとしてもペンダントとしてもまだまだ現役でお使いいただけます。