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2019/11/15 23:19


アンティークシェルカメオのコレクターにはあまりにも有名なサウリーニ親子。
トマゾ・サウリーニは親子の父の方にあたります。
ただでさえレベルの高い19世紀中のカメオ彫刻家の中でこの親子は最も高い評価を得ており、当時の絶頂期の大英帝国王室へカメオを多く献品した記録が残っており、いまも大英博物館にて展示された作品を見ることができます。
父のトマゾは1793-1864、子のルイジは1819-1883の人生であり、サウリーニ親子と似た経歴を持つ巨匠ジョヴァンニ・ノト(1902-1985)より100年古いだけあって、その現存品も貴重なノト作のハイクオリティピース以上に数が少なく、また残っているものも当時の貴族・富豪たちの実用に供されたと思われ、表面の摩耗や亀裂の目立つものが大半で、状態のいいものは滅多に見つかりません。
無論現在においてもその評価は極めて高く、状態のいいものは非常な高値で取引され、またこの200年のうち名前の知られているシェルカメオ作者で芸術性・ブランド力・技術力でランクをつけるならば、上位にサウリーニ親子、ジョヴァンニ・ノト、(サウリーニのほか19世紀には名前を入れている作者がごく少数だが存在するものの、人物はともかく風景描写まで含むとノトよりは落ちると感じる)それからしばし空いた形でカルロ・パルラーティと来るのは、広く一定の知識を身に着けたカメオ愛好家の誰に聞いても異論がないことと思います。
写実性を残しつつ女性的な気品を極め魂を込めたジョヴァンニ・ノト、独自のデフォルメを通じてより根源的な生命をテーマとし魂を込めたカルロ・パルラーティに対して、サウリーニ親子の作品はただただ写実性を極めたものであり、まさに生者の魂そのものを感じさせるような表現はジョヴァンニ・ノトともカルロ・パルラーティとも異なる古今無双のものでありましょう。

なお作風については献上品などではギリシャ神話の神々をモチーフとしたものなどが多いとされ、甲冑を身にまとったアテナ像などアンティークの絶品中の絶品といえるものが大英博物館にも展示されており、一般向けにはよりシンプルに、おそらく写真などの持ち込みをうけて、あるいは本人の横顔のスケッチをアトリエで描いて(サウリーニ親子に関する専門書には当時のスケッチが大量に掲載されている)、依頼の個人を彫ったものが多くなります。
現在もそうしたオーダーは無くはないのですが、いまはオーダーで人物を彫るというのは聞かず、動物やキャラクターであることが多いようです。
そうしたモチーフと比べると実在の人物というのはその写実性がより重視され、それを十分なレベルで再現できる職人が現在はいない(少数そうした作品もあるが、やはり元とはかなり違うと言わざるを得ない)のがその理由なのでしょうが、それを極めて高いレベルで再現できたサウリーニ親子の現存作は、同氏の底知れない技術の高さを感じさせるものがあります。
ちなみにサウリーニ親子はシェルのみならずメノウのカメオも制作していたことが知られており、もちろんそちらのレベルも極めて高く、ニコロ・モレッリにも劣らないような名作を制作しております。

日本における評価に関しては、こちらはまだアンティークジュエリーの方向から名前を知る機会があるだけにノト氏よりいくらか評価されますが、やはりまだまだ日本のカメオの愛好家の世界においては不当な評価に甘んじていると言わざるを得ないでしょう。
ノト氏の項でもふれたように、現在の日本におけるカメオの価値観は、バブル期以降宝飾業界の都合のいいように形作られた面が強いもので、まだまだその影響から抜けきっておらず洗練されたものとは言えません。
当時は宝飾店舗の販売員から聞くことでしか情報が入ってこなかったのでそれもやむなしであったものの、いまはインターネットを通じて現場販売員よりもずっと専門的な見識を持つ人物の発信する情報が手軽に入手できる時代となってきました。
今後は愛好家間の情報の充実によりこれまでと違った価値観が醸成されてくるものと思いますが、その過程で各作家の再評価が進み、この名実ともに巨匠の名に恥じない大家が正当な評価を取り戻すことを期待するばかりです。